延命治療
僕がとっている産経新聞の文化欄には、毎日「断」という小さなコラムが掲載されています。
4月22日付の「断」の見出しは、「なぜ延命治療を中止するのか」というものでした。 もし自分の配偶者なり親なりの近親者が重い病に冒されたとしたら、どんな方法を尽くしてでも、少しでも長く生きていてもらいたい、と思うのが当然の感情だと思います。 僕は今まで幸いなことに、身近にそのような病に冒された人が無く、あまり深く延命治療ということを考えたことがありませんでした。 ところが最近、「ER 緊急救命室」という海外TVドラマにはまって、約一年がかりでついにシーズン10まで見終わりました。アメリカで驚異的な視聴率を記録して、日本でもNHKで放映されているこのドラマをご存じの方は多いと思います。 このドラマの中では、しょっちゅう「延命拒否」という言葉が出てきます。 この言葉は、重篤な患者自身が、もし病状が進んで心臓や呼吸が止まっても機械や薬を使って人工的にそれらを動かし、いわば無理矢理に延命治療をするのはやめてくれ、とはっきり意思表示することを指します。 アメリカでは患者がはっきりと意思表示し、書類にもサインがしてあれば延命治療は一切行われません。患者は自然に死を待つ状態になります。 もちろん家族は納得できないことが多く、また患者自身が一度そう意思表示した後にやはり延命を望んだり、また病院に担ぎ込まれた時点で既に意識が無く、延命拒否がなされているかがあいまいだったりと、そこには様々な物語が生まれます。 このドラマは一分一秒を争う緊急救命の現場で、ぎりぎりの決断を毎日のように迫られる医師たちの緊迫した毎日がリアルに描かれていて見応えがあり、飽きさせません。 僕はこの「ER」にどっぷりとつかってしまった御陰で、日本でも患者自身が自分の終末医療について意思を表明し、尊重されるものだと思いこんでいました。 ところが、先に紹介した「断」によると、「今月九日、厚労省は終末期患者の延命治療の中止に関する指針を発表した。患者や家族の意志を重視し、医師が独断で治療を中止することがないよう定めたものだ」とのこと。 つまりは「延命拒否」を認めるどころか、それをしないよう公式に通達を出した、というわけです。 「断」では、一見家族の心情に反するような「延命治療の中止」という決断を何故医師がするのか、について語ります。 つまりは、「やりすぎると、ときに悲惨な状況になる」からだと。以後、そのまま引用します。 「器械とチューブにつながれ、白目をむいて、手足は丸太のようにむくみ、顔は水死体のように膨れ、出血傾向で体中の穴という穴から出血する。股間からはコールタールのような血便があふれ、点滴で入れた水は、棺に入れたあとも流れ出る」 こんな壮絶な状況は、今まで全く知らなかったですし、想像も出来ませんでした。 さすがの「ER」でさえ、そこまでは描いていません。 「断」は言います。 「医療者は延命治療の実態をもっと公開すべきだ。患者や家族も、自分が終末期になったらどんな治療を受けるか、ふだんから考えておいた方がいい」と。 この実態が広く知られるようになれば、医師の独断ではなく家族との合意の元で、無理な延命治療は中止されるようになるだろう、というのが「断」の主張です。 これを読むと、先の厚労省が出した指針は現実に即していないことがよくわかります。 この指針に従うということは、患者や家族が望むと望まざるとに関わらず医師は延命治療を続けなければならないことになります。 その結果、上記のような悲惨な状況が生まれ、患者は尊厳を持った死を迎える権利を奪われることになってしまいます。 また今の状況では医師の独断で延命治療が中止されると、その医師は法的責任を負わなくてはいけない事にもなってしまいます。 残念ながら、この点においては、日本はアメリカよりも認識や対応が遅れていると思わざるを得ません。 偶然ですが、この記事を読むのと前後して、ある知り合いの女性から、彼女のお母様が重い病に冒されて亡くなった時のお話を聞く機会がありました。 それはまさに上記のような壮絶な状態だったということで、「断」にもあるような「人間が生きたまま腐っていくような状況」を地でいっていたそうです。 彼女はこの話をしてくれた時に、お母様の四肢が腐って悪臭を放っていたことが忘れられない、と言っていました。彼女の口調は決して暗いものではなかったのですが、それだけに彼女がどれだけの感情を自分の中で処理して葛藤して今ここにあるのかに思いが至り、思わず泣けてきそうになりました。 もし、自分が彼女の立場に置かれた時に、無理な延命治療を自らの意志で断ることが出来る仕組みが、日本でも一日でも早く整備されることを期待したいと思います。
by idive
| 2007-04-26 10:54
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